母豚の現状

日本では、豚をはじめとする家畜の飼育について、十分な運動ができるスペースの確保といった、ストレスのない環境づくりに関する法規制などはありません。そのため、たとえば妊娠している母豚は、「子どもを踏みつけるかもしれない」「暴力的になるから」といった理由で、ストール(檻)に閉じ込められ、身動きができない状況に置かれています。その割合は、日本では9割近くにも上ります。
ストレスのたまる環境で育つ豚は、他の豚を傷つけたり、尾や尻尾をかむなどの自傷・他傷行為に走ることがあります。その結果、傷がついた豚の革は、なめしても傷が残ってしまい、革としての価値も下がってしまっているのが現状です。

モノづくりにおける動物福祉・アニマルウェルフェアの意味

日本と異なり、欧米では動物福祉の観点から、豚の飼育は厳しく管理されています。EUではイギリスから始まり、動物福祉は動物衛生、食品の質と安全、人間の健康、環境とのつながりが強く意識され、科学データに基づく規制が行われています。2009 年には基本条約(EU 機能条約)にも動物福祉の尊重が盛り込まれ、動物福祉に反した産品が制御されるようになりつつあります。EU議会では2021年6月、2027年までにケージ飼育を撤廃することを決議しました。 豚革の評価も人気も高いヨーロッパのハイブランド企業は、豚の飼育環境に配慮された革を調達し、鞄や靴などの製品作りに使っています。
アニマルウェルフェアの意識が浸透しつつある欧米と異なり、日本では、動物福祉に配慮した飼育に関する規制がないために、ストレスのない環境で育てられた豚の革の流通は非常に限られています。月産100万頭分と言われている豚革の中で、アニマルウェルフェアに配慮して育てられた豚が占める割合は極めて少ないのが現状です。しかし最近では、持続可能な開発目標(SDGs)への関心の高まりに伴う、原材料の調達への配慮の重要性が認識されるようになりつつあります。
現在の豚が置かれている状況を変えるためには、より多くの畜産農家の方、そして皮革から靴や鞄、衣類、家具、日用品、文具などを作り出す多くの企業や団体の方が動物福祉に配慮した革を選択し、製品にすることが必要です。
そして同時に、このことは食肉文化についても言えます。ストレスのない環境で大切に育てられた豚の命をいただくこと。このことは飽食の時代である現代、改めて「真のいただきます」の意味を見直すきっかけでもあります。